民法改正と賃貸経営への影響③賃借人に修繕権が認められた!
弁護士 角田智美
賃借人が勝手に修繕できるわけではない
改正法では、賃貸物件に修繕が必要となった場合、賃借人自らが修繕できるということが明文化されました。これは、今までの賃貸借契約関係において当然に認められていたものではなく、賃借人に新たな権利を認めたものと言えます。
賃貸人としては「勝手に修繕されては困る!」と思われるかもしれません。
しかし、賃借人が修繕できるのは、賃借人が賃貸人に「修繕が必要である」旨を通知し、賃貸人がこれを知ったにもかかわらず、相当期間内に修繕しない時に限定されています。したがって、賃借人が勝手に修繕できるわけではないので安心してください。
ただし、夜中に水道管が破裂して漏水したなど「急迫の事情」がある場合には、賃貸人への事前通知をすることなく、賃借人に修繕権が認められます。
トラブル防止のためにも、修繕が必要となった場合の具体的対応策の取り決めについて、きちんと契約書に記載しておくことが重要です。
賃料は、物件の減失割合に応じて減額される
現行民法では、賃貸物件の一部が滅失したり、使用収益(使用して利益・利便を得ること)できなくなった場合、賃借人は賃料の減額を請求できるとされています。
改正法はこれをさらに押し進めて、滅失等の割合に応じて、賃料が当然に減額されるとしました。ただし減額が認められるのは、滅失等について賃借人が無過失の場合のみです。
契約期間の上限が延長された
改正法では、賃貸借契約の存続期間の上限が20年から50年に延長されました。
これはゴルフ場や太陽光パネル設置など、長期間の賃貸借契約を締結する必要があることによるもので、一般のオーナーへの影響は少ないと言えます。
建物所有を目的とする土地建物の賃貸借については、借地借家法が適用されますので、改正法による影響はありません。施行される平成32年4月1日までには少し時間がありますが、今から不動産会社と相談しながら準備を進めていきましょう。
これまで3つの記事にわたり、「民法改正と賃貸経営への影響」についてお伝えしてきました。最後に、賃貸借契約で注意したい3つのポイントをまとめておきましょう。
◇賃貸借契約で注意したいこと!
①連帯保証人が個人の場合、極度額の定めがないと契約は無効 !
②原状回復の範囲を契約書で明示し、賃借人の合意を得る !
③賃借人の修繕権行使について、具体的な取り決めを行う !
民法大改正と賃貸経営への影響①「敷金」と「原状回復義務」の明文化
(プロフィール)角田智美 かくた・ともみ 弁護士。
中島・彦坂・久保内法律事務所所属。大東文化大学法学部法律学科卒業。2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)。2014年より大東文化大学法学研究所講師を務める。民法改正に精通し、共著に『民法大改正ガイドブック:ビジネスと契約のルールはこう変わる』(ダイヤモンド社)がある。