「事業承継」のコツとタブーその③承継成功のカギは「万全の準備」
大家さん専門税理士賃貸オーナー 渡邊浩滋
準備を万全にする6つの手順
事業承継を成功させるには、次の6つの手順で行うことをおすすめします。どれだけ準備を万全にするかが、カギになります。
①資産管理表を作成する
まず、オーナー様自身が資産の内訳や価値を把握することが不可欠です。そこでやっていただきたいのが、資産と人脈の棚卸しをして、物件ごとに資産管理表を作成することです。一覧表にすることで資産全体を俯瞰でき、何を引き継がせて、何を処分・売却するかが見えてきます。主な必要項目は次の通りです。
・資産管理表の必要項目
◇立地:住所、最寄り駅、土地面積、取得年・取得原因(購入、贈与、相続など)、固定資産税評価額
◇建物概要:構造、規模、建築年、間取り、賃料、インフラ、設備
◇今後の方針(修繕計画など):5年以内にやること、10年以内にやること
◇修繕管理状況:管理形態、管理会社、連絡先、担当者
◇借入金(借入の条件を知る):金融機関名、借入金残高、借入条件
◇保険:保険会社、保険金額、保険期間
◇修繕:修繕履歴、修繕担当、連絡先
②承継者を選ぶ
次に、どの物件を誰に引き継がせるのかを考え、事前に承継者(候補)と話をしておきましょう。相続のことは話しにくいと感じる人もいますが、ここでしっかりと、賃貸経営を引き継いでもらいたい思いを伝えることが大切です。
③遺言書を作成する
承継者が明確になったら、遺言書を書きましょう。確実に残しておくなら公正証書にするべきです。あとから承継者を変更する場合には、遺言書を書き直せば、新しいものが有効になります。
④承継者に権限移譲する
いよいよ実際に承継者に賃貸経営を教えていきましょう。不動産会社さんとの打ち合わせに同席させるなど、賃貸経営を体感させることから始めて、少しずつ権限を与えていくのがおすすめです。
⑤引き継ぎたいと思われる資産にする
①〜④と並行して行っていただきたいことがあります。それは、資産のマイナス面の改善です。傷んだ建物のメンテナンス、借入金の返済などはできる限り承継者にしわ寄せがいかないよう、ご自身の代で解決するようにしましょう。
⑥事業承継を実行する
相続、生前贈与、法人化などの方法により、事業承継を実行します。もし、相続税がかかるようであれば、相続税対策を同時に進めていくのがよいでしょう。
日頃から、コミュニケーションを大切に
事業承継は、オーナー様と承継する人が一緒になって行うものです。そのためにはコミュニケーションが大切です。私の経験上、親子だけで向き合うよりも、税理士や管理会社などに同席してもらったほうがスムーズに話し合えることが少なくありません。上手に第三者を利用して、事業承継を成功させてください。
※リンク
「事業承継」のコツとタブー
その①事業承継は元気なうちから始める
その②「承継の方法」と「承継者選び」のポイント
その③承継成功のカギは「万全の準備」
(プロフィール)
わたなべ・こうじ 税理士・司法書士。明治大学法学部卒業。総合商社勤務を経て税理士となる。2008年、両親から危機的経営状態のアパート5棟86室を継ぎ、税理士業と並行して経営を立て直す。‘11年、独立開業。税理士・司法書士の強みを活かし、不動産のスペシャリストとして、また大家の視点から賃貸経営のアドバイスを行う。セミナー、講演多数。著書に「ライフサイクルから考える賃貸経営の税務Q&A」、共著に「大家さんのための超簡単!青色申告」がある。