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更新日 : 15/11/02

退去トラブルの原因防止と解決法<その1>トラブルは入口=契約時点で防ぐのがベスト

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AVANCE LEGAL GROUP LPC 執行役員・弁護士  家永 勲

なぜ、退去トラブルはなくならないのか?

不動産賃貸借契約における原状回復義務については、これまで、最高裁判所の判例や国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、「ガイドライン」)、東京都の「紛争防止条例による原状回復義務に関する説明義務の追加」などで、判断やルールが詳しく示されています。しかし、いまだにトラブルが絶えません。

私の元にも、一年を通じてオーナー様や不動産管理会社さんから、さまざまな相談や問い合わせが寄せられます。中でも代表的な事例をご紹介します。

◆オーナー様からの相談<代表事例>◆

私は「原状回復費用を賃借人の負担とする」旨の特約を設け、合意を得たつもりで契約しました。退去後、賃借人から、敷金から差し引かれた原状回復費用が高額すぎるというクレームがきました。退去時には、賃借人立ち会いの上で修繕すべき箇所を確認し、原状回復にかかる費用は賃借人の負担とする旨を記載した精算書にサインをもらっていたので、想定外のことで驚いています。サインがあるのですから、原状回復費用を賃借人に負担してもらうことに問題はないですよね?ちなみに原状回復費用は、他の業者よりも安いくらいで、決して高額の負担をお願いしているわけではありません。

●サインがあっても、十分とは言えない

このような場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

ご相談のケースのように、精算書にサインをもらったのだから、賃借人が納得していると考え、原状回復費用を払ってもらえると解釈する賃貸人が少なくないようです。しかし、それだけでは賃借人に費用を負担してもらえるとは言えないのです。

なぜなら、賃貸人と賃借人のどちらが原状回復費用を負担するか決めるための条件を十分に満たしていないからです。「ガイドライン」に示されているルールに添ってお話ししましょう。

トラブル防止に不可欠な「契約時の合意」とは?

「ガイドライン」で強調されていることは、原状回復の問題は、退去時=「出口」ではなく、契約時=「入口」にあり、「入口」で原状回復の負担内容について、賃借人と合意ができていることが重要だという点です。つまり、「入口」の段階で原因となる要素を取り除いておけば、トラブルには至らないということです。

最高裁判例(平成17年1月16日)の表現を借りれば、賃借人に原状回復費用を負担させる旨の「特約が明確に合意されていることが必要である」となります。

 ●特約が認められる3つの条件

「ガイドライン」では、特約が認められるためには条件が必要だとしています。

❶特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的・合理的理由が存在すること

❷特約によって、通常の原状回復義務を超えた修繕等の「義務を負うこと」を賃借人が認識していること

❸賃借人が特約によって生じる「義務を負担する意思表示」をしていること

以上3点です。

契約の際に、最も忘れがちなこと

では、ご相談のケースで何が欠けていたのか、具体的に検証してみましょう。

まず費用は「他の業者より安いくらい」ということですから、❶の暴利的ではないという点は問題なさそうです。❸についても賃借人が負担する旨にサインしていることから、意思表示をしていると言えそうです。したがって、問題となるのは❷です。

❷は、契約締結時や原状回復費用の精算書にサインをもらう際に、最も忘れがちな要素です。つまり、「賃借人が通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うこと」=「本来賃貸人の責任である修繕等の義務を賃借人に転嫁すること」を認識してもらう必要があるということです。

 「ガイドライン」と、修繕費に関するルール

「ガイドライン」に示されている修繕等の義務についておさらいしておきましょう。賃貸人が義務を負うのは、本来賃料のなかに含まれている「経年変化」や「通常損耗」に関する修繕費用です。

一方、賃借人は「故意または過失、善管注意義務違反により生じた損耗」について、負担義務がありますが、その範囲は、「貸した時の状態に戻すこと」ではなく、自らの落ち度や不注意で生じた部分の修繕に限定されています。

●「経年変化」「通常損耗」は、賃借人の義務も範囲外

上記のことから、「ガイドライン」で「経年変化」や「通常損耗」に分類されている部分は、賃借人の原状回復義務の範囲外となります。

もし、これらを賃借人の負担とする場合は、

❶「本来は賃借人が負担すべき修繕である」旨を賃借人に説明して、明確に認識してもらい、

❷その上で「費用負担を賃借人に転嫁すること」に対して同意を得る必要があるということなのです。

●本来、賃貸人が負担すべき通常損耗の例

賃貸人が負担すべき通常損耗の代表例を挙げておきましょう。※「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」より抜粋。

<床・畳>

・家具の設置によるへこみ ・変色、色落ち

<壁>

・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ、電気ヤケ ・変色(日照によるもの)

・画びょうやピンの穴(下地ボードの張り替え不要な場合)

・エアコン設置によるビス穴、跡

<建具>

・網戸の張り替え ・地震で破損した窓ガラス

・網入りガラスの亀裂(自然発生の場合)

<設備、その他>

・ハウスクリーニング、消毒 ・浴槽、風呂釜の交換(破損は除く)

・鍵交換(紛失、破損は除く) ・寿命による設備機器の改善

※リンク

退去トラブルの原因防止と解決法<その1>トラブルは契約時点で防ぐのがベスト
退去トラブルの原因防止と解決法<その2>特約を有効にするために必要なこと

(プロフィール)
いえなが・いさお 1983年、滋賀県生まれ。立命館大学法学部・同法科大学院卒業。2007年弁護士登録。東京弁護士会所属。不動産関連の法務に詳しく、「不動産業界がリアルに直面するクレーマーへの対応とその予防策」など、オーナー向けセミナーの講師や執筆も多数。企業法務、介護・高齢者施設関連法務の分野でも活躍。

http://www.avance-lg.com/office/profile.html

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