家族が幸せになれる相続④節税対策の基本<その2>相続財産を減らし、評価を下げる
弁護士・税理士 長谷川裕雅
節税対策として、できること
相続税の増税に対し、どのような対策が必要となるでしょうか。まず、節税の基本は
①相続財産を減らすこと
②相続財産の評価を下げること
この2点を重点に対策を立てましょう。
<対策1>相続財産を減らす
①生前贈与を行なう
親族間の生前贈与の税率が緩和され、また時限法になりますが「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」により、父母・祖父母から子・孫への贈与は行いやすくなりました。従って、生前贈与の活用を積極的に検討してみるべきです。
②「相続時精算課税制度」の活用
賃貸不動産をお持ちの方は、「相続時精算課税制度」を利用し、生前に贈与してしまうのも一つの手です。相続時精算課税制度は、相続税と贈与税を一体として精算するものです。
❶まず贈与時に、相続時精算課税制度に基づく贈与税額を支払います(ただし2500万円までは非課税で、超えた部分に課税される)。そして、❷相続が発生した時に、相続税額とすでに支払った❶の贈与税額を調整するのです。
贈与財産の種類や金額、贈与回数に制限はなく、総額2500万円以内なら贈与税を支払う必要はなく、2500万円を超えた部分について、一律20%で課税されます。
贈与財産の評価は、贈与の時点が基準
相続時精算課税制度において、贈与財産の評価額は「贈与時」が基準となります。例えば相続時よりも贈与時の評価額が低い場合は、節税効果があるといえます。また賃貸物件を贈与した場合、今後発生する賃料分は受贈者(相続人)のものになりまので、被相続人の財産(相続財産)を減らすことができます。
③賃貸不動産の建て替えの検討
すでに賃貸不動産をお持ちの方は、思い切って賃貸不動産を建て替えるのも一策です。解体費用や建て替え費用を支出することで相続財産を減らすことができますし、建て替えによって入居率を上げることもできます。
<対策2>相続財産の評価を下げる
①賃貸不動産を建てる
未使用の更地をお持ちの方は、賃貸不動産を建てることにより節税効果を期待できます。被相続人名義の土地と建物を他人に貸している場合、その土地は「貸家建付地」として評価され、更地よりも低い評価額になります。賃貸物件などは、借主にすぐに出て行けと主張できるような強い権利はなく、自分のために自由に使えないという点で、その不動産の使用に制限がかかるので、評価が低くなるのです。
例えば、更地としての評価が2500万円で、借地権割合が70%の賃貸物件が建っている場合は、貸家建付地の評価額は、1975万円になります。なお賃貸物件は、相続発生時の満床率が重要になるため、賃貸割合を計算する際は、空き室リスクを考慮することが重要となります。
②「小規模宅地等の特例」の利用
「小規模宅地等の特例」は、相続の際、被相続人が住んでいた宅地や仕事用に使用していた土地について(相続開始の直前まで使用)、一定の面積の範囲で土地の評価額を減額するという制度です。不動産をお持ちの方は、この特例を受けられるか否かで、相続税が発生するかどうか大きく左右されますので気になるところです。
●制限面積が240㎡から330㎡に拡大
特定居住用宅地の軽減率は80%で改正前と変更はありませんが、改正により上限面積が240㎡から330㎡に拡大されました。特定事業用宅地は変更なく、軽減率80%、上限面積400㎡となっています。
●「特定居住用宅地」と「特定事業用宅地」の完全併用が可能に
また、特定居住用宅地と特定事業用宅地は、改正前は部分的な併用しかできませんでしたが、改正後は完全併用ができるようになりました(貸付事業用宅地は除く)。従って、最大で「特定事業用宅地400㎡」と「特定居住用宅地330㎡」の合計730㎡まで、80%減額されることになります(適用条件詳細は、国税庁「小規模宅地等の特例」をご参照ください)。
なお、賃貸アパートや貸駐車場などを所有する人で、自宅などが限度面積に満たない部分は、不動産賃貸用の土地と併用して適用を受けられます。
平成22年度に大きな改正があったばかりの「小規模宅地等の特例」ですが、今回の改正も相続税を計算する上で影響がある内容です。法律は改正によって変化していきます。不動産オーナーの方は、常にアンテナを張り、相続の際に損がないように対策を講じることが大切です。
※リンク
家族が幸せになれる相続①不動産の遺産分割<その1>分けにくい不動産は分けやすくする
家族が幸せになれる相続②不動産の遺産分割<その2>土地の評価と相続対策
家族が幸せになれる相続③節税対策の基本<その1>相続税改正のポイントと対策
家族が幸せになれる相続④節税対策の基本<その2>相続財産を減らし、評価を下げる
(プロフィール)
はせがわ・ひろまさ
相続弁護士・東京法律事務所代表(第一東京弁護士会所属)。弁護士・税理士。早稲田大学卒業後、朝日新聞社に入社。刑事事件の記者として活躍するなか、一念発起し弁護士に。現在、敏腕若手弁護士として、多くの相談者から絶大な信頼を得ている。サザエさんの「磯野家」を例にした著書『磯野家の相続』が人気を博す。『週刊文春』での連載も好評。相談は相続弁護士・東京法律事務所へ。